鉄はなぜ磁石にくっつく?ミクロの秘密
鉄が磁石にくっつくのは、鉄の中にある無数の小さな磁石が、外から近づいた磁石に向きをそろえるからです。向きがそろった瞬間、鉄そのものが一時的な磁石に変わります。
だから引き合うのです。この小さな磁石の集団は「磁区」と呼ばれ、1907年にフランスの物理学者ピエール・ワイスが提唱しました。
小さな磁石の正体は電子
鉄の中の小さな磁石とは、原子が持つ電子のことです。電子は自転にたとえられる「スピン」という性質を持ち、一つひとつが極小の磁石として働きます。
多くの物質では、電子のスピンが二つずつ向き合って打ち消し合い、磁気が消えてしまいます。ところが鉄・ニッケル・コバルトでは打ち消されずに残り、原子そのものが磁石になります。
この三つが、磁石に強く引かれる代表的な金属です。専門用語では強磁性体と呼びます。
ガドリニウムなど、一部のレアアースも同じ仲間です。
ふだんは磁区どうしが打ち消し合う
日本磁気学会の説明では、磁区とは磁極の向きがそろった原子の集団です。一つの磁区の中では原子の磁石が同じ方向を向いていますが、磁区どうしの向きはばらばらです。
そのため鉄のクリップや釘は、全体として磁力を打ち消し合っています。何もしなければ、ただの金属のかたまりというわけです。
磁石を近づけると磁区の境目が動く
そこへ磁石を近づけると、磁区と磁区の境目が動きだします。外の磁石と同じ向きの磁区が広がり、逆向きの磁区は縮んでいくのです。
やがて鉄全体が一時的な磁石に変わり、近づけた側に反対の極が現れて引き合います。これを磁気誘導といいます。
焼きなました鉄では、外から加えた磁界が5000倍ほどに強まることもあります。磁石を離すと磁区はまたばらばらに戻り、磁力は消えます。
くっついていたクリップを外すと、ほかのクリップを引きつけなくなるのはこのためです。鋼のように整列が元に戻りにくい材料だけが、永久磁石になります。
アルミや銅がつかない理由
新潟県立自然科学館は、アルミニウムや銅にも小さな磁石は入っていると説明しています。ただし磁石を近づけても同じ向きに整列しないため、くっつきません。
アルミのなべや銅の電線が磁石に反応しないのは、そのためです。逆に、鉄が主成分なのにつきにくいものもあります。
流し台などに使われるオーステナイト系のステンレスは、原子の並び方が鉄とは違い、磁石につきにくいのです。
約770度まで熱すると磁石につかなくなる
磁区の整列は熱に弱いという弱点があります。温度を上げると原子が激しく揺さぶられ、向きをそろえていられなくなるのです。
その境目の温度をキュリー温度といいます。鉄のキュリー温度は1043ケルビン、およそ770度です。
真っ赤に熱した鉄は磁石に引かれません。ニッケルは約354度と低く、コバルトは約1115度と高めです。冷やせば磁石につく性質は元どおりに戻ります。
クリップがくっつく一瞬、鉄の中では無数の磁区が向きをそろえています。台所で磁石を当ててみてください。
鉄のフライパンにはつき、アルミのボウルにはつかず、ステンレスの流し台は製品によって分かれるはずです。その差が、整列が起きているかどうかの目印になります。
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