寒いとなぜ鳥肌が立つ?遠い祖先から受け継いだ体の名残
寒いときの鳥肌は、体毛が多かった時代の名残です。毛を立てて空気の層をつくる反応ですが、毛の薄い人間ではほとんど保温になりません。
ところが2020年の研究で、この古い反応の部品が今も別の仕事をしていることが分かりました。
冷たい風に当たると、腕に小さなぶつぶつができます。医学では立毛反射と呼ばれ、ラテン語の呼び名は「ガチョウの皮膚」という意味です。
英語のグースバンプス(ガチョウの粒)も同じ発想でした。日本語では鳥、英語ではガチョウ。
羽をむしった鳥の皮膚に見えたのは、どこの国でも同じだったようです。
毛穴についた筋肉が毛を引き起こす
皮膚の毛穴の一つひとつには、立毛筋という小さな筋肉がついています。寒さを感じると交感神経が信号を送り、この筋肉が反射的に縮んで毛を引き起こします。
毛の根元が持ち上がり、皮膚の表面にあのぶつぶつができるわけです。立毛筋はふつう自分の意思では動かせません。
鳥肌を「立てよう」と思って立てられないのは、そのためです。
毛を立てるのは空気をためるため
この反応は、毛がふさふさした動物では立派に役立っています。毛が立つと毛と毛のあいだに空気の層ができ、空気は熱を伝えにくいので、天然の防寒着になります。
寒い日に鳥が羽毛をふくらませて丸くなるのも同じ理屈です。毛皮だけで冷たい海に耐えるラッコのような動物にとって、毛のあいだの空気は命綱といえます。
人間ではほとんど保温になっていない
人間は進化の過程で体毛の大半を失いました。腕や脚に残っているのはうぶ毛のように細く短い毛で、逆立てても空気の層はできません。
つまり鳥肌は、しくみだけが残って本来の役目を果たせなくなった反応です。こうした名残を、生物学では痕跡的な反射と呼びます。
歯車は回っているのに、つながる先の装置がもう無い状態です。
恐怖や音楽で立つのは交感神経のしわざ
鳥肌が立つのは寒いときだけではありません。立毛筋に指示を出す交感神経は、驚きや緊張のときに体を戦う態勢へ切り替える神経です。
そのため恐怖を感じたときも、感動する音楽を聴いたときも、同じ回路が動きます。ネコが敵を前に毛を逆立てて体を大きく見せるのも、チンパンジーが興奮して毛を立てるのも、もとは同じ反応です。
体を大きく見せるほどの毛がない人間には、感情の高ぶりだけが残りました。
2020年に見つかった、鳥肌の別の仕事
ハーバード大学などのチームが2020年7月に科学誌セルで発表した研究で、立毛筋と交感神経が毛をつくる幹細胞を支える土台になっていることが分かりました。立毛筋は交感神経を毛穴のそばにつなぎとめる役目を持ち、寒さが続くと交感神経がノルアドレナリンを出して幹細胞を刺激します。
マウスではこれが新しい毛をつくるスイッチになっていました。短い寒さには毛を立てて耐え、長い寒さには毛を増やして備える。
鳥肌をつくる部品は、二段構えの寒さ対策を担っていたのです。
役に立たない名残と思われていた鳥肌ですが、毛をつくる装置としては現役でした。次に腕がぶつぶつになったら、明かりにかざして見てください。
ふだんは寝ているうぶ毛が、いっせいに立ち上がっているのが分かります。何百万年も前の体の設計図が、今も律儀に動いている証拠です。
参考にした資料