打ち水はなぜ涼しい?気化熱のしくみ
打ち水が涼しいのは、まいた水が蒸発するときに地面や空気から熱をうばうからです。この熱を気化熱といいます。
実際の観測では、地面の表面温度が20度ほど下がった例もあります。ただし、まく時間と場所を間違えると涼しさは長続きしません。
夏の暑い日、玄関先や庭に水をまく「打ち水」。江戸時代には日常的に行われていた涼のとり方です。
冷たい水で地面を冷やしていると思われがちですが、涼しさの正体は水が乾いていく過程のほうにあります。
蒸発には桁違いの熱がいる
水は、温度が上がるだけならわずかな熱ですみます。ところが液体から気体に変わるときには、けた違いの熱を必要とします。
1気圧・100度で水を蒸発させるのに必要な熱は1キログラムあたり2257キロジュール、25度なら2442キロジュールです。同じ1キログラムの水を0度から100度まで温めるのに必要な熱がおよそ420キロジュールですから、蒸発はその5倍以上を使う計算になります。この差が、打ち水の効きめを生んでいます。
なぜ水はそんなに熱を必要とするのか
理由は、水の分子どうしが手をつないでいるからです。水の分子は水素結合という強い力でたがいに引き合っています。
気体になってばらばらに飛び出すには、その手をほどくためのエネルギーがいります。だから水は、同じくらいの重さのほかの分子とくらべても蒸発熱がとびぬけて大きいのです。
打ち水は、この水ならではの性質をそのまま利用しています。
地面はどれくらい冷えるのか
日本気象協会が気温35.6度の猛暑日に東京・豊島区の南池袋公園で行ったサーモカメラ観測では、打ち水の前に62.4度あった地面の表面温度が、打ち水の後には41.8度まで下がりました。その差はおよそ20度です。
ただし温度はじわじわ戻り、約1時間後にはほぼ元の値に近づきました。気温そのものが大きく下がるわけではありません。
うばわれた熱は消えたのではなく、水蒸気に姿を変えて空気中へ運ばれていくからです。それでも環境省は、日中の打ち水では気温が下がらなくても体感温度が約1.5度下がるとしています。
足もとの照り返しがやわらぐぶん、涼しく感じられます。
朝夕に、日陰へまく
環境省がすすめているのは、朝や夕方の日ざしが弱い時間帯に、日なたよりも日陰へまくやり方です。ポイントは、水をすぐに蒸発させないこと。
真昼の日なたにまいた水は短時間で乾いてしまい、涼しさもそこで終わります。日陰の地面ならゆっくり蒸発し、そのあいだずっと熱をうばい続けてくれます。
空気が湿っている日は水も蒸発しにくいので、効果は弱まります。
汗をかくのも同じ理由
このしくみは、私たちの体にも備わっています。暑いときに汗をかくのは、汗が蒸発するときの気化熱で体温を下げるためです。
裏を返せば、汗が蒸発しなければ体は冷えません。湿度が高く風のない場所で熱中症が起きやすいのは、汗が流れ落ちるばかりで蒸発せず、体温が下がらないからです。打ち水も汗も、同じ物理の上に成り立っています。
打ち水は、水をまくだけの素朴な行いに見えて、蒸発熱という水の性質を使った理にかなった方法です。効果を出したいなら、朝か夕方に、日陰の地面へ。
まく時間を変えるだけで、涼しさの続き方が変わります。
参考にした資料