ヴェネツィアの広場で、鳩に餌をやってはいけない理由
ヴェネツィアで鳩に餌をやると、過料をとられます。市の規則で定められた立派な禁止事項で、金額は25ユーロから500ユーロ。
理由は、鳩のフンが大理石や石灰岩をいためるからです。かつては広場の名物だった餌やりが、街を守るために姿を消しました。
過料は25ユーロから500ユーロ
ヴェネツィア市の公式サイトには、市内でしてはいけない行為と金額が一覧で示されています。鳩とカモメへの餌やりはそのひとつで、過料は25ユーロから500ユーロ。
根拠は「都市衛生・獣医衛生および動物福祉に関する市の規則」第24条です。条文は、鳩などの鳥が増えすぎて衛生上の問題が起きるのを防ぐため、道路や広場、水路に食べ物を与えたり食べ残しを捨てたりすることを禁じています。
つまりパンくずを投げる行為だけでなく、食べ残しを置いていくことも同じ扱いです。対象はサンマルコ広場に限らず、市内全域におよびます。
2008年、広場から餌売りが消えた
かつてサンマルコ広場では、露店が観光客に鳩用のトウモロコシを売っていました。1袋がおよそ1ドル、繁盛した日には1軒で100ドルを超えたといわれます。
この光景が終わったのは2008年5月です。当時のマッシモ・カッチャーリ市長が餌やりの禁止を広場にも広げ、許可を受けていた19軒の露店が店じまいしました。
露店側は市に補償を求めて反発しましたが、決定は覆りませんでした。市が動いた理由は費用です。
調査会社ノミスマの報告では、鳩による汚れと被害の後始末に、住民1人あたり年間およそ275ユーロがかかると試算されていました。
フンが石をいためる仕組み
問題は見た目の汚れだけではありません。2004年の学術誌「ヨーロッパ鉱物学ジャーナル」に載った研究によると、たまった鳩のフンには水に溶ける塩分が4パーセント含まれています。
研究チームがこの成分を溶かした液を多孔質の石灰岩にかけたところ、表面が目に見えて傷み、鉱物の粒が溶け出しました。大理石も石灰岩も主成分は炭酸カルシウムで、酸に触れると化学的に溶けます。
ヴェネツィアの建物や彫刻は、まさにその石でできています。
なぜ広場にこれほど集まったのか
街なかの鳩は、もともと人に飼われていたカワラバトが野生化したものです。都市には天敵が少なく、鳩の数は「どれだけ餌があるか」でほぼ決まります。
餌が売られ、観光客が毎日まいてくれるサンマルコ広場は、鳩にとって条件のそろった場所でした。2008年当時、市内の鳩は推定4万羽。
当時の市の環境担当者は、餌を断った効果が数字に出るまでに2、3年かかると話しています。駆除ではなく餌やりの禁止が選ばれたのは、餌の量を減らすほうが根本的だからです。
旅行者が気をつけること
禁止の対象は鳩だけではありません。市の一覧では、カモメへの餌やりも同じ条項に含まれています。
あわせて、広場や橋の上に座り込んで飲食すると100〜200ユーロ、運河での遊泳は350ユーロ、ごみの投げ捨ても350ユーロと決められています。上半身裸で歩けば250ユーロです。
手元のパンをちぎって分けたくなったら、この一覧を思い出してください。
鳩に何もあげないことが、いちばん確実な街の保護になります。ヴェネツィアを歩くときは、鳩にはカメラだけを向けておきましょう。
参考にした資料